万年筆は「書き味」、自動車は「乗り味」。使ったときのフィーリングの表現が似ている。「書き心地」、「乗り心地」とも違うのだろうか?
■「○○味」と「○○心地」の違いは
モノを使ったときのフィーリングについて、「○○味」という表現が決まり文句になっているモノは、それほど多くない。万年筆の「書き味」と自動車の「乗り味」。他に よく使われるのは、刃物の「切れ味」くらいか。
一方、「○○心地」という表現をするモノは、たくさんある。万年筆の「書き心地」、自動車の「乗り心地」、服の「着心地」、メガネの「かけ心地」、腕時計や装飾品の「付け心地」など。
いったい、「○○味」と「○○心地」は どう違うのだろうか と考えてみた。
⇒ 「○○味」は、モノを操作した時の反応とその感覚を表現しているようだ。(人がアクティブに操作したときのモノからのフィードバック)
一方、「○○心地」は、モノが体が触れるときの触覚などの感覚を表現しているようだ。(人がパッシブにモノから受け取る 受け身のフィーリング)
万年筆や自動車は、積極的に人が操作するので、「○○味」という表現が似合う。万年筆や自動車でも受け身に感じるときは、「○○心地」ということか。例えば、自動車のドライバーのフィーリングが「乗り味」、パッセンジャーのフィーリングが「乗り心地」とか。
■モノから人が感じるメカニズム
モノから人が感じる物理的メカニズムは、大雑把には万年筆と自動車で似ている。平面(紙面/路面)からモノの接点(ペンポイント/タイヤ)が反力や摩擦力を受け、バネ(ペン先/サスペンション)を介して、躯体(軸/ボディ)から人の体に伝わって、動きや力を感じる。
■モノの特性による動き方
①躯体の影響
躯体(軸/ボディ)の質量や寸法は、全体の動き方に影響する。
・軸/ボディが軽ければ、動かすときの応答が速い。(慣性が小さい)
・軸長/ホイールベースが短ければ、動かすときの応答が速い。(慣性モーメントが小さい)
・軸径/トレッドが広ければ、動かす力をかけやすい。(モーメントアームが長い)
つまり、軽量軸、短軸、太軸の(スポーツカーのような)万年筆は、速記に向く。逆に、重量軸、長軸、細軸の(セダンのような)万年筆は、ゆっくり安定して書くのに向く。
②バネの影響
バネ(ペン先/サスペンション)の弾性(バネ定数)は、上下動(ペン先のしなり/サスペンションのストローク)に影響する。
・バネ定数が大きいと、上下動が小さく、動きがダイレクトに伝わる。
つまり、ペン先が しなりにくい(レーシングカーのような)万年筆は、速記に向く。逆に、ペン先が しなりやすい(ラグジュアリーカーのような)万年筆は、ゆっくりソフトに書くのに向く。
・バネ定数が非線形だと、力の大きさによって 上下動のしやすさ が変わる。小さな力では上下動しやすく、大きな力では その割に上下動しにくい。
万年筆で言うと、ファーストタッチは柔らかいが、筆圧をかけるとコシがあるように感じる。(スパゲッティに例えると、外が柔らかく中に芯がある「アルデンテ」)
非線形性の有無は、好みが分かれると思う。自分は、どちらも好きだが。
③平面と接点の影響
平面(紙面/路面)と接点(ペンポイント/タイヤ)の関係は、摩擦力に影響する。
・紙面/路面が濡れれば、ペンポイント/タイヤは滑るようになる。
万年筆で言うと、インクフローが多いと、滑らかになる(筆記抵抗が小さくなる)。
・ペンポイント/タイヤが きちんと紙面/路面に当たっていないと(アライメントが くるっていると)、摩擦力がばらつく。
万年筆で言うと、ペンポイントの左右が食い違っていると、線の方向によって筆記が引っかかる。
(※実際には、これら以外に さまざまな要因が影響するが、ここでは大雑把な傾向の話)
■まとめ
以前万年筆から受ける感覚を自動車に例えたこともあったが、万年筆と自動車はフィーリングが似ている。自動車好きな人ならば、自動車との類似性から万年筆をイメージすると楽しいのではないか。例えば、ポルシェのような万年筆とか。
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