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プロの調整販売の安心感 『万年筆の達人』(おすすめ本)

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 万年筆は使ってみないと分からないもの と思っていた。もしかして達人ならば、思うようなものが自在に得られるのだろうか。そんな達人の技を見てみたい。

 ■なぜこの本を読んでみたか

  万年筆を最初に買ったときは、自分の中に基準がないので、こんなものかな と思った。次は、安いのにすばらしい と思った。その次は、高いのに こんなはずでは と思って、万年筆が分からなくなった。店頭で試し書きして納得しても、家で書いていると なんか違う と感じる。万年筆は、一筋縄ではいかない。そんな万年筆の「達人」と言われるようなプロは、どうしているのか知りたい。

 ■どんな本か

  万年筆の製造、販売、利用に関わる「達人」28人を紹介している。

  著者は、万年筆で絵を書く画家の古山浩一氏。耐水性、耐光性のある万年筆インクによって絵画作品に万年筆が使えるようになった とのこと。

■参考にしたポイントは

  万年筆の調整販売をしている この達人。

フルハルタ 森山信彦氏

   使い手1人1人に合わせて調整。使用目的や万年筆を持つ位置を見て、万年筆選びのアドバイスをする。

金ペン堂 古矢健一氏

   ペン先の切割(スリット)が平らに紙に当たることを前提に調整。持ち方の悪い人には使い方を教える。

⇒この2人は、ともに万年筆の調整販売をしているが、調整のアプローチが真逆に思えて面白かった。一方は、ユーザに合わせて万年筆を自在に調整。もう一方は、一番良い万年筆に合わせてユーザの使い方を教育。

■実際に試してみると

    真逆なので、両方試してみるしかない。試す万年筆は、両店で勧めているペリカンのスーベレーン。

フルハルタ

  伺ったのは、2018年2月で閉じられた東京大井町の店。接客は「達人」ご本人。

  注文は、書き味の滑らかさと使い勝手の良さのバランスを考えた字幅の中字(M)。軸を多少ひねってペン先が傾いても滑らかで書きやすいように と御願いした。軸を ひねったりして書けないのは使い方が悪いのだが、そうは お客に言えないので、以前モンブランに勤めていたとき客にあわせて調整するようになったそうだ。

  翌日には、調整できて万年筆を受け取った。自宅で、ペリカンの純正インクを入れて書いてみると、インクが盛り上がるくらい潤沢に流れ出る。軸を多少ひねっても、押し書きしても、線が かすれず、書くときの滑らかさ(筆記抵抗)も変わらず、自在に書ける。白紙の紙に のびのび書くのに良い感じだ。

  数か月そのまま使っていたが、小さめな字を書くため、もう少し線が細くならないか と店に相談に行った。すると、店の奥の方で何分もかからずに調整されて、インクの出(インクフロー)が絞られ、線が若干細くなった。その代わり、少し筆記抵抗が増えたが、そこはトレードオフか。そして、このような簡単な調整は、すぐに出来るので、気軽に相談して欲しい と好意的に言っていただいた。

  なお、線の太さは、書き方によって変わるとのこと。例えば、中字(M)という注文で調整しても、筆圧がかかってしまい、本来のMではなく太字(B)みたいになる人もいるらしい。筆圧をかけないようにすると、本来の字幅でかけるそうだ。自分の書き方についてきいてみると、本来の字幅で大体書けている とのことで安心した。

  ところで、小さな机に差し向かいで接客されるので、注文以外に いろいろ話を伺った。

  「完治することのない両手親指の痛みで、毎日店を開けられないし、まとめて休むときもある。指に負担がかかる細字の調整が出来なくなって、商売が減ってしまった。それでも、お客さんから、休みながらで良いから細く長く店を続けて欲しい と言われ、とても幸せなことだ」と話されていた。

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金ペン堂

  伺ったのは、東京神田神保町のお店。接客は「達人」の息子さん。

  注文は、ノートに小さめの字を書くことを考えて細字(F)にした。この本に試し書き不要と書かれていた通り試し書きはしなかったので、購入はすぐ終わった。

  自宅で、ペリカンの純正インクを入れて書いてみると、やはり軸を多少ひねったりても、押し書きしても線がかすれることなく、滑らかに書けた。丸みを帯びた線の形状も似ている。インクフローは、潤沢というより必要十分という感じだったが、細字には合っている気がする。

  数か月そのまま使っていたが、もう少し筆記が滑らかにならないか と思って、店に相談に行った。そうすると、やはり何分もかからずに調整されて、インクフローが増やされ、筆記が滑らかになった。その際には、軸の寝かせ具合(筆記角)についての客の希望を確認しながら、調整をされていた。そして、何かあったら相談に乗るので、いつでも店に来て欲しい と好意的に言っていただいた。

⇒二つの店は、本を読んだ印象では真逆のアプローチと思っていたが、万年筆の自在な書きやすさ、アドバイスやアフターサービスの姿勢が よく似ていた。どちらの店も、顧客の使い方の希望を聞きながら万年筆の特性を教えてくれるし、簡単な再調整に応じて、気軽に相談に来てほしい と言っていた。プロの店で いつでもアフターサービスが得られる という安心感は、重要だと思った。

  それにしても、ペリカンスーベレーンの万年筆は、書き味が実に良い。ペン先に力をかけても安定感がありつつ、筆記時の微妙な感触も手によく伝えてくれる。自動車に例えると、ダンパーがよく効いていて、ステアリング・インフォメーションの豊かな車のようだ。

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■以前と比べてみると

  以前は、万年筆の書き味が気に入らないと、万年筆の製品そのものが悪い と思ったり、製品の個体差で当たり外れの運が悪い と嘆いていた。

  今では、万年筆の書き味は調整や使い方次第で大きく変わることが分かって、気に病むことはなくなった。同じペン先、同じインクでも、ペン先をちょっといじるだけで、インクフローが変わり、書いた線が変わり、筆記抵抗も変わる。さらに、万年筆を変えなくても、万年筆の持ち方や筆圧を変えるだけでも、書き味は変わる。そして、調整の手段は いろいろある。万年筆の調整販売のほかに、万年筆メーカの調整や市販店での調整(ペンクリニック)もある。これらも、メーカや人によって考え方の違いがあって面白い。だからこそ、思うような書き味になると うれしい。(万年筆いろいろ、調整もいろいろ)

■まとめ

  万年筆は、工業製品ながら調整や使い方で書き味が大きく変わる繊細なもの。

  調整販売しているプロの店に行ってみると、使いやすく調整された万年筆が購入できるし、気軽にアフターサービスが得られる という安心感が心地良い。

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万年筆の達人

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